【頂上決戦 4】
ぼくのここ最近の目標、「序列を見抜くこと」。
ついに、解決の糸口になる出来事が起こった。
その瞬間は、飼い主の入浴前に訪れた。
アイちゃんは脱衣所で、体重計に乗っていた。望ましい結果でなかったのか首を傾げている。その姿は、なぜかわからないと戸惑っているようにも見えた。
ストレスに違いないとぼくは断定した。人間社会でも猫社会でも、とりあえずストレスが原因と言っておけば、外れることはない。
そんなことを考えていると、不意にロン君が脱衣所に足を踏み入れた。おっ、と口を開けたまま、どれどれと体重計の表示を覗こうとした。
「ちょっと、勝手に見ないでよっ」
すごい剣幕でアイちゃんは叫んだ。
ロン君は一瞬気圧され、すぐに真剣な面持ちで謝罪した。
そのとき、ぼくの中に電流が走った。ついに、答えを見つけてしまったのだ。
大声で怒鳴られ、結果的に謝罪する、まるで上司と部下のようだった。誇張すれば、ロン君の姿は奴隷と形容してもよさそうだ。
これは明確に、アイちゃんに軍配が上がる。
ぼくは嬉しかった。全速力で走り出す。早速ラキちゃんに伝えねば。
ラキちゃんはちょうどトイレから出てくるところだった。
案の定大きい方だった。しかし、事は急を要する。頭では理解できていた。それでも、我慢を貫くにはあまりにも強烈で臭いに、ぼくはひるまざるを得なかった。ロン君に助けを求めようと、大きく一声鳴いた。
しかし彼はぼくの期待を裏切り、しょぼくれたままリビングの方へ去っていった。
仕方がないので、名人のぼくが砂をかけて応急処置をすることにした。さすがの名人も、緊急状況下においては、丁重に隠している余裕はなかった。
「ラキちゃん、ついに序列がわかったよ」
興奮のせいで自然と声が大きくなった。
「本当に?」
「うん、百聞は一見にしかずだよ。ほら、こっちにきて」
ぼくはラキちゃんを脱衣所へ案内した。そこで待っていれば、いずれ先程のやりとりが確認できるはずだ。
脱衣所に張り込んでしばらくすると、ロン君がやってきた。
そして、彼も体重計に乗った。
結果が表示されてから、ロン君は体重計のボタンを操作した。どうやら数日前の自分の結果と比較しているらしい。なるほど、この体重計には各人の結果が記録されるのか。
ちょっと太ったかな、と独り言をつぶやいた。
ロン君は再度体重計に乗った。
やっぱりダメか、とつぶやく。
この数秒で体重が減るわけないのに、どうして再度希望を託したのか全く理解できなかった。
すると、アイちゃんがやってきた。
「ねえねえ、あんたは今何キロなの?」
ロン君の眉間に皺が寄った。
「おい、見るな、早くあっち行けよっ」
ロン君はそう一喝した。
アイちゃんはしゅんと肩を落とし、謝罪した。その後ろ姿は、まるで主人に叱られた犬のようだった。
こうして、ぼくの疑問は結局解決しなかった。
それにしても、とぼくは思う。
そこまで気になるならば、こっそり体重計の情報を見ればいいのに。
そんなことも思いつかないなんて、うちの飼い主は、ば飼い主だ。
うまい表現に自画自賛し、気分が良くなったので、ぼくは先程の応急処置を名人の出来栄えにするために、トイレの方へと歩き出した。


